小さな刃

 何かしらをするかしまいかの選択をする際、それぞれの選択肢に対してどのような結果を得るかを事前に知ることは難しい。結果を知ってから、ああしてよかった、こっちにしとけばよかった、などと思うことができる。だから、選択をする際、できるだけ自分の選択に対し悔いが残らない選択肢を選んだほうがいい。

 8月7日、母校の高校を訪問し、進路の手引きという冊子をいただいた。その冊子に卒業生からのメッセージが載っていたのだが、その中のあるひとりの卒業生の文章が私を惹きつけた。その卒業生は、昨年度に東京大学を受験し、残念ながら不合格となり、他の大学に進学した。彼女の書いたメッセージの一部を、ここで引用させていただきたい。

 

私は東京大学を前期試験で受験しました。東大を受験しようと思った一番の理由は、二年生の秋に・・・(中略)・・・東大見学ツアーに参加した時に東大の雰囲気にとても惹かれたからです。もちろん日本一の大学であることや集まっている人のレベルが高いと先輩がおっしゃっていたことも魅力的でした。しかしつらい時やあきらめそうになった時、頑張ろうと思わせてくれたのは、やはりあの素敵な空間で勉強してみたいという思いでした。・・・(中略)・・・私は東京大学に合格することはできませんでしたが、挑戦してよかったと思っています。東大を志望していなければこんな頑張って勉強しなかったし、頑張ったことで、周りの人に支えてもらっていることに気づくことができたり、一緒に勉強を頑張った、大切な友達ができたり、強い精神力が得られたりしました。これは一生に一度しかできない、いい経験だったと思うので、もし行きたい大学があるなら、臆することなく、挑戦してみてほしいと思います。

 

 私はこの文章を読んだとき、思わず涙を流した。彼女は、私が卒業生として参加した東大見学ツアーに参加し、東大受験を決意した。その時の彼女の瞳は確かに、力強く、輝いていた。彼女は、自身の選択を後悔していない。なぜなら、納得して選んだ道だから。彼女は、強い。すごく強い。

 私は、日本の教育に絶望を感じている。受験ばかりに気をとられ、生徒に勉強ばかりの高校生活を送らせることが、教育の本質なのであろうか、という疑問がいつも頭に浮かぶ。もっと大切な何かがあるだろうという思いを胸に抱いているが、現在の制度をすぐに覆すのは難しい。でも、このままではいけない。

 私は、この文章を初めて読んだとき、ただひたすら困惑した。卒業生からのメッセージとして、不合格体験記を載せるなんて、聞いたことがない。しかしかすかに、高揚した。彼女の志は、絶望に包まれた日本の教育界に差し込む、一筋の光に見えたから。雲間から強く差し込み、暗い地を照らす、一筋の光に見えたから。